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最高裁判所第一小法廷 平成11年(許)36号 決定

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。

1  本件の本案事件(東京地方裁判所八王子支部平成八年(ワ)第二三六九号損害賠償請求事件)は、八王子信用金庫の会員である相手方が、同信用金庫の理事であった抗告人に対し、信用金庫法三九条において準用する商法二六七条に基づき、損害賠償を求める会員代表訴訟である。

2  本件は、相手方が、抗告人の善管注意義務違反ないし忠実義務違反を証明するためであるとして、八王子信用金庫が所持する文書につき文書提出命令を申し立てた事件である。

3  本件申立てにつき、原々審は、文書提出義務が認められないとして却下したが、原審は、証拠としての必要性や重要性を検討して文書提出義務の存否を判断すべきであるとして、原々決定を取り消し、原々審に差し戻した。原決定に対し、抗告人は、本件抗告をした。

二  そこで、職権により本件抗告の適否について検討する。

文書提出命令は、ある事実を立証しようとする当事者が自ら証拠を提出する代わりに、裁判所の命令により文書の所持者にその提出を求めるものであり、文書提出命令が発せられた場合には、これに従わない所持者は、文書の記載に関する相手方の主張を真実と認められるなどの不利益を受け、あるいは過料の制裁を受けることがある。そこで、民訴法二二三条四項は、文書提出命令の申立てについての決定に対しては、申立人とその名あて人である所持者との間で文書提出義務の存否について争う機会を付与したものと解される。また、文書提出命令は、文書の所持者に対してその提出を命ずるとともに、当該文書の証拠申出を採用する証拠決定の性質を併せ持つものであるが、文書提出命令に対し証拠調べの必要性がないことを理由として即時抗告をすることは許されない(最高裁平成一一年(許)第二〇号同一二年三月一〇日第一小法廷決定・民集五四巻三号一〇七三頁参照)。そうすると、文書提出命令の申立てについての決定に対しては、文書の提出を命じられた所持者及び申立てを却下された申立人以外の者は、抗告の利益を有せず、本案事件の当事者であっても、即時抗告をすることができないと解するのが相当である。

本件においては、抗告人は、文書の提出を命じられた所持者ではなく本案事件における当事者にすぎず、原決定に対する不服の利益を有しないから、本件抗告は、不適法なものとして却下を免れない。

よって裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎 裁判官町田顯 裁判官深澤武久)

抗告代理人永石一郎、同土肥將人、同渡邉敦子、同中村知己の抗告理由

一 原決定においては、民事訴訟法二二〇条四号ハについて、以下のとおり、高等裁判所の判断と相反する判断がなされた。

すなわち、東京高等裁判所平成一一年七月一四日決定(平成一一年(ラ)第一三二二号文書提出命令申立却下決定に対する抗告事件)は、金融機関の稟議書について、「民事訴訟法二二〇条三号後段の法律関係文書に当たらず、また、同条四号ハの自己使用文書に当たる」として文書提出命令申立てを却下する決定に対する抗告を棄却している(金融法務事情一五五四号八〇頁)。また、福岡高等裁判所平成一一年六月二三日決定(平成一一年(ラ)第七〇号文書提出命令申立却下決定に対する抗告事件)も、金融機関の稟議書について、「専ら自己使用の目的で作成した文書であるから、民事訴訟法二二〇条三号後段の法律関係文書に該当せず、(同条四号ハの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」にも該当する。)」と判断している(金融法務事情第一五五七号七五頁)。

しかるに、原決定は、「民事訴訟法二二〇条三号後段の法律関係文書には当たらない」としつつも「会員の代表訴訟の提起が正当なものである限り、信用金庫が右訴訟を提起した会員に対して稟議書が内部文書である旨主張することは許されず、本件文書中本件訴訟の追行に必要な文書については同条四号により相手方に文書提出義務を認めるべきことが考えられる。」と判断し、文書提出命令の申立を却下した原決定を取り消し、本件を原審に差し戻す旨の決定をした。

二 また、金融機関の稟議書についての文書提出命令をめぐる高等裁判所の判断は、現在個々に分かれ、法的安定性を欠く状況となっており、金融機関の稟議書は、民事訴訟法二二〇条三号後段の法律関係文書に当たるのか否か、同四号ハの自己使用文書にあたるのか否かの判断は法律の解釈に関する重要事項である。

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